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第15回【注意したい日本語―表記のありがちなズレ】

 日本語と英語の間で意味がずれる表記の例として、名詞と名詞を羅列する際に挿入する「スラッシュ」と、情報を付け加えたい場合に使う「丸括弧」があります。正確で明確に書くためには、日本語に出てくるこのようなスラッシュや括弧を、英語でどのように表現するとよいかについても、理解しておく必要があります。

英語のスラッシュは主にor,特定の文脈ではand

 まず、英語の「スラッシュ」の一般的な使い方を確認しておきます。代表的なスタイルガイド『シカゴマニュアル』には、英語のスラッシュは基本的にor(=または)を表す、と書かれています。記載を確認しておきましょう。(なお、The Chicago Manual of Styleは、2014年12月現在、16th editionが最新版となりますが、1つ古い15th editionを引用しています。)

Signifying alternative. A slash most commonly signifies alternatives. In certain contexts it proves convenient shorthand for or. It is also used for alternative spellings or names.
例:he/she, his/her, and/or, Hercules/Heracles他
                            (The Chicago Manual of Style, 15th edition, p.269)

解説:スラッシュはalternatives(二者択一)を表す。orを略して表す便利なもの。また別のスペルや名前があるときにも使用。

 さらに、シカゴマニュアルには、上記の一般的な使い方に加えて、スラッシュは、文脈によってはand(=および)を表す、とも書かれています。

Technical use. A slash is used in certain contexts to mean and.
例:an insertion/deletion mutation, an MD/PhD student
                            (The Chicago Manual of Style, 15th edition, p.269)

解説:技術的な内容で、スラッシュはand(および)を表すことがある。

日本語のスラッシュは主にand,そしてor他

 一方で、日本語で「A/(スラッシュ)B」とある場合、「スラッシュ」が意図しているのは、主に「および」や「または」であり、たいていの場合、「および」を表しています。
 例を見てみましょう。

<例1>

対物レンズのUP/DOWN駆動

解説:対物レンズの上への駆動(UP駆動)および下への駆動(DOWN駆動)、または、UP駆動またはDOWN駆動、のいずれかを表したいと思われる。この種の使用では、「および」と「または」のうち、「および」を意図していることが多い。

 またさらに、スラッシュが、andやorとは別の意味で使われることもあります。例を見てみましょう。

<例2>

DC/DCコンバータ

解説:DC/DCコンバータとは、直流電流(DC)を必要な電源電圧に変換するDCからDCへの変換を行う。つまり、スラッシュは「および」でも「または」でもなく、「~から~へ」や「~と~との間」などを意図していると思われる。

 これら例1や例2のスラッシュを含む日本語表現を日本人が英訳すると、たいてい、次のように、英訳にそのままスラッシュが残ります。

例1のありがちな英訳: Up/down driving of the objective lens
例2のありがちな英訳: a DC/DC converter

 これらの英訳は誤りというわけではなく、実際の技術文書でも用いられていることがあります。一方、問題点として、スラッシュが何を意味するのかが分かりづらいことがあげられます。例1の場合、スラッシュがandを表すのかorを表すのか、分かりません。どちらとしても、解釈が可能です。例2の場合、スラッシュがandの意味でもorの意味でもありませんので、何を意味しているかは、実際に内容を調べて理解するしかありません。

スラッシュを使わずに具体的に書く

 例1と例2のありがちな英訳を、スラッシュを使わずにリライトすることができます。例1では、スラッシュを使用せずに英単語andを使って書くことで、内容を明確に表すことができます。例2では、DC/DCコンバータを表す別の英語表現を、ネット検索などで複数入手して、リライトすることができます。

例1のリライト例:
Up and down driving of the objective lens ○
例2のリライト例:
a DC-DC converter, a DC DC converter, またはa DC-to-DC converter ○

解説:例1ではスラッシュを避けてandを使って内容を明示。例2では、「DC/DCコンバータ」を表す英語は、スラッシュを使う表現に加えて、DC-DCのようにtoを表すハイフンを使う表現、DC DCのように単にスペースを空けて羅列する表現、またはDC-to-DCのようにtoを使って内容を明示する表現がある。複数の表現から、イメージしやすいものを選択するとよい。

 このように、日本語に出てくるスラッシュを英訳する際には、そのまま英語のスラッシュに置き換えずに、具体的に、andやor、または別の表現を使って英訳をするのがよいでしょう。
 科学技術分野(特に化学分野)のスタイルガイドである『ACSスタイルガイド』にも、次のように、スラッシュを使わないで表記する旨が明示されています。

Do not use a slash to mean “and” or “or”.
(andやorを意味するためにスラッシュを使わないようにする)


誤り例:  Hot/cold extremes will damage the samples.
正しい例: Hot and cold extremes will damage the samples.

Replace “and/or” with either “and” or “or”, depending on your meaning.
(及び/またはを表すand/orは、伝えたい意味に応じてandやorを使って具体的に書く)


誤り例:  Our goal was to confirm the presence of the alkaloid in the leaves and/or roots.
正しい例: Our goal was to confirm the presence of the alkaloid in the leaves and roots.
      Our goal was to confirm the presence of the alkaloid in either the leaves or the roots.
      Our goal was to confirm the presence of the alkaloid in the leaves, the roots, or both.
                            (The ACS Style Guide, Third edition, p56)

日英の丸括弧表記の微妙なズレ

 次に、情報を付加したい場合に使う丸括弧について説明をします。英語の丸括弧とは、本文と関連する内容を挿入したい場合であって、コンマやダッシュによる挿入よりも、その本文との関係が弱い場合に使用するものです。例えば、シカゴマニュアルには、丸括弧は、次のように説明されています。

Parentheses
Characteristics of Parentheses. Parentheses usually set off material that is less closely related to the rest of the sentence than that enclosed in em dashes or commas.

例:
Intelligence tests (e.g., the Standford-Binet) are no longer widely used.
The final sample that we collected (under difficult conditions) contained an impurity.他 
                            (The Chicago Manual of Style, 15th edition, p.265)

解説:丸括弧内には本文と関連ある付加説明を入れる。コンマやダッシュによる挿入表現よりも、丸括弧では本文との関連性が弱い。

 一方、日本語には、丸括弧と似た状況で使えるコンマやダッシュにあたる表現が無く、また丸括弧の使用方法についても確立していないため、日本語の丸括弧をそのまま英語に訳すと、伝えたいニュアンスがずれてしまう場合があります。

 丸括弧にて挿入される付加情報が、本文との関連がどのくらい強いか、そして本文に対してどのくらい必要な情報かに応じて、英訳の際に丸括弧を使うべきかどうか、決定することができます。本文との関連が比較的強い場合、丸括弧ではなく、コンマによる挿入を使用するとよいです。本文に対して必要な情報であると判断できる場合には、丸括弧でもコンマ挿入でもなく、括弧から出して本文の一部として書くとよいです。本文に対してそれほど必要ではない付加情報である場合には、その情報の本文との関連度に応じて、コンマ挿入、または丸括弧、を選択するとよいです。

丸括弧の英訳例(例1~例4)

 日本語に存在する丸括弧を、同じニュアンスを伝えるように訳す方法について、説明します。

<例1:括弧のまま訳す、コンマ挿入で訳す>

あらゆる金属は(水銀を除いて)、高温で溶ける。

解説:本文が伝えたいのは「あらゆる金属は高温で溶ける」という内容。水銀はもともと液体であるため、「あらゆる金属」に対して、「水銀は除外」という付加説明が必要となっている。その意味で、本文の「あらゆる金属」と「水銀」との関係は、比較的強い。

英訳例1:
All metals (except mercury) melt at high temperatures. ○
英訳例2:
All metals, except mercury, melt at high temperatures. ◎

解説:英訳例1は和文通りに丸括弧を使った例。これでも正しいが、英訳例2のようにコンマで挿入すると、日本語の括弧が表したいニュアンス、つまり本文と比較的強い関連と、付加説明との両方のニュアンスが出る。

<例2:括弧から出し、それでも括弧のニュアンスを訳し切る>

都市部の地表面における熱収支が、都市化に伴う人工排熱の増加や地表面被覆の改変(舗装,建築物等)などにより変化し、都心の気温が郊外に比べて高くなる現象をヒートアイランド現象という。
(工業英検1級過去問題より抜粋)

括弧を使わない英訳例:
The surface heat balance of urban areas changes when human-caused waste heat increases or natural land cover is replaced with pavement, buildings, and other structures in the process of urbanization.
(工業英検1級 模範解答)

解説:日本語に括弧があっても、そのまま括弧表記にて英訳する必要は無い。日本語の括弧は、情報が多くて分かりやすさが損なわれる場合に、付加情報部分を括弧内に入れることで、視覚的に分かりやすくするために使用されることがある。括弧内が「例示」であれば、括弧内に入れずに、種々の例示表現を使って本文の一部として英訳することで、日本語の括弧のニュアンスを残すことも可能。

<例3:単純に括弧から出す>

データを領域A(ここで、領域Aとはメインメモリ上でデータの記憶を行う領域のことである)にデータを保存した後、システムを再起動する。

ありがちな英訳:
The system is restarted after the data is stored into the storage area A (the area A is an area of the main memory into which data is to be stored). ×

括弧を使わない英訳例1:
The system is restarted after the data is stored into the storage area A. The area A is an area of the main memory into which data is to be stored. ○

括弧を使わない英訳例2:
The system is restarted after the data is stored into the storage area A, which is an area of the main memory into which data is to be stored. ○

解説:括弧内が独立した文章の場合、括弧から出して英訳することで不自然さを無くすことができる。さらに英訳例2のように関係代名詞の非限定表現を使って「付加説明」に変更すれば、和文の括弧に込められた書き手の気持ちを表現することができる。

<例4:二重括弧を避ける>

データを領域A(記録領域A(ここで、記憶領域Aとはメインメモリ上でデータの記憶を行う領域のことである))にデータを保存した後、システムを再起動する。

ありがちな英訳:
The system is restarted after the data is stored into the area A (the storage area A (where the storage area A is an area of the main memory into which data is to be stored)). ×

英訳例1(括弧内の情報のうち一方を括弧の外に出す):
The system is restarted after the data is stored into the area A (the storage area A). The storage area A is an area of the main memory into which data is to be stored. ○

英訳例2(括弧を使わない):
The system is restarted after the data is stored into the storage area A, which is an area of the main memory into which data is to be stored. ○

解説:括弧の中にさらに括弧が入ると読みづらい。外に出しても和文が伝えたいニュアンスは変わらない場合が多い。なお、括弧から出して書いてみると、冗長や不要情報に気づく場合もある。

正確・明確に書くために―英語と同一視しがちな表記に注意する

 日本語のスラッシュ・丸括弧は、英語にも同じ表記があるために、英訳にそのままスラッシュと丸括弧を使ってしまうことがあります。大きな間違いにはならない場合が多いですが、不明確になったり、ニュアンスがずれたりすることがあります。日英の些細なギャップをも楽しみ、具体的な英単語に訳す工夫をすること、そして書き手自身が具体的に内容をイメージできる表現を決めていくことが大切です。細かいニュアンスの違いに丁寧に対応することにより、正確で明確な英文が書けるようになります。

【注意すべき日本語―表記のありがちなズレ】のPOINT

  • 表記のズレにも着目し、各種スタイルガイドを参考にしながら、隅々まで日英のギャップを埋める。真に内容等価の英訳を目指すことが、スキルアップにつながる。
  • 英語のスラッシュは通常or(または)を表す。一方で、日本語のスラッシュは曖昧であり、and(および)を意図した場合が多いことに留意する。日本語のスラッシュは、英単語を使って適宜しっかりと英訳する。
  • 英語の丸括弧は、本文と関連する内容を挿入する。コンマやダッシュによる挿入よりも本文との関係が弱い。日本語の丸括弧は、コンマによる挿入、関係代名詞の非限定、などを使って英訳するとよい。また、括弧内が独立した文章の場合、括弧の外に出してもよい。括弧内のさらなる括弧(二重括弧)は読みづらいので、適宜一方または両方を外に出す。

<参考文献>
・The Chicago Manual of Style , 15th edition, The University of Chicago Press, 2003
・The ACS Style Guide, 3rd edition, Oxford University Press, 2006

目次

本連載は、日本工業英語協会による機関紙『工業英語ジャーナル』に2009年6月から2014年6月にわたって連載した「日英翻訳スキルアップ」(中山裕木子著)を元に、加筆修正したものです。

中山 裕木子著 外国出願のための特許翻訳英文作成教本

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