分詞(構文)の使用ポイント
日英技術翻訳における分詞または分詞構文の使用ポイントは、次の通りです。それぞれのポイントについて、順を追って、基礎から詳しく説明します。
ポイント1:
文頭での裸の分詞構文(接続詞無しの分詞構文)は使わないほうが無難。接続詞を残すことで、明確にすると共に、懸垂分詞(主語のズレ)を避けるとよい。
ポイント2:
文末の分詞は利点あり。類似表現の「前文全体を先行詞とする関係代名詞」や「2文に区切った表現」(後で説明)を超える場合がある。
*なお、文末分詞は分詞構文とは異なるため、懸垂分詞のことは考えなくてよい。
ポイント3:
前置詞のように働く分詞、として懸垂分詞が許容されている特殊な表現がある。分詞usingは、その一種と考えるとよい。
分詞構文とありがちな懸垂分詞の誤り
まず、分詞構文とは何かを説明をします。分詞構文とは、現在分詞(=「動詞のing形」、能動的意味を表す)や過去分詞(=「動詞のed形」や不規則変化形、受動的意味を表す)を使った説明句です。分詞を文頭に置き、その後に他の語を続けて作ります。分詞構文は、接続詞節のように使い、「〜をしたとき」という「when」の意味や、「理由」、そして「〜をしながら」という「付帯状況」、などを表します。
分詞構文の正しい使用例:
Entering the pipe, the liquid cools rapidly. (管に入ると、液体は急速に冷える)
解説:When the liquid enters the pipe, the liquid cools rapidly.と同じ意味。
なお、分詞構文において、分詞の意味上の主語は、文の主語と同じである必要があり、異なってしまった場合、懸垂(けんすい)分詞と呼ばれる誤り表現となります。
科学技術系の有名なスタイルガイドの一つである、AMA Manual of Style(AMA=American Medical Association)より、懸垂分詞の例を見てみましょう。
懸垂分詞による文法誤りの例(『AMAスタイルガイド』より):
Working quickly, the study was completed early by my research team.
(迅速な仕事により、当研究グループはその研究を早期に完成することができた)
問題点:分詞workingがthe studyに係っているように見えるが、workingしたのはresearch teamである。
『AMAスタイルガイド』によるリライト案:
My research team worked quickly and completed the study early. / The study was completed early because my research team worked quickly.
解説:懸垂分詞を避けるため、分詞構文を使わない表現に変更。
分詞構文の活用方法は?―使うならば接続詞を残す
「分詞構文をどのように活用したらよいかを知りたい」という問いへの答えは、「使わなくても書ける」、つまり「特に無理をして使わなくてもよい」、です。使わなくて他の表現が可能ですし、シンプルに単文で表現することが好ましい場合もあります。
また、分詞で文章をはじめることで、例えば上の「分詞構文の正しい使用例」では、When the liquid enters the pipe の意味なのか、After the liquid enters the pipeなのか、Because the liquid enters the pipeなのかが明示されない状態となります。
さらに、分詞…ingから文章を開始すると、上の「懸垂分詞による文法誤りの例」であげた文章のように、主節と分詞構文の意味上の主語とのズレを見逃してしまい、「懸垂分詞」となってしまう危険性もあります。
そこで、文頭で分詞構文を使いたい場合には、接続詞を残して使うことをおすすめします。接続詞を残すことで、意味が明確になる上、主語のズレによる懸垂分詞も発見しやすくなります。また、接続詞を残してみて、文章が長くて冗長だと感じる場合には、シンプルな単文にリライトをする必要性があることも分かります。
例えば、上の「分詞構文の正しい使用例」では、次のように、接続詞を残してリライトすることができます。
分詞構文に接続詞を残す:
When entering the pipe, the liquid cools rapidly. ○
The liquid cools rapidly when entering the pipe. ○
解説:接続詞whenの使用で明確に表現可能。なお、when以下を後半に移動してもよい。
またさらに、次のように、分詞構文を使わずに、シンプルな単文にリライトすることも可能です。
分詞構文をやめて単文にリライトする:
The liquid enters the pipe and then cools rapidly. ○
The liquid entering the pipe cools rapidly. ○
解説:単文で書くことで、読みやすくなる場合もある。
文末に置く分詞は活用価値あり
分詞構文の活用価値があまり高くない一方で、文末で使う分詞による修飾(ここでは「文末分詞」と呼びます)については、好ましい場合があります。
使用例を見てみましょう。
文末分詞の好ましい使用例:
However, the photoresist layer portion may remain in the trench, protecting the underlying metal layer from subsequent processing steps.
(感光樹脂層がトレンチに残り、下地の金属層が後に続く処理の影響を受けるのを防ぐことができる)
Micron Technology, Inc.による米国特許より
(米国特許番号8,329,580)
文末分詞の利点は、前から時系列に読ませることで、英文の流れがよくなる点です。直前に置かれている文全体を受け、「~につながる」「~を引き起こす」「~する」といった内容を表すことができます。
なお、文末の分詞に似た表現に、前文全体を先行詞とする関係代名詞非限定があり、日本人ライターには、こちらの表現が好まれることが多いようです。一方、前文全体を先行詞とする関係代名詞は、先行詞が分かりづらいことがあり、文末分詞を使うほうが、格段読みやすくなります。
なお、関係代名詞表現を避け、2文に区切って、後半をThis…(SVO)、のように独立した文章として書くことも可能ですが、2文に区切りたくない場合や、自然に流れよく読ませたい場合などに、文末分詞は活用価値があります。
上の「文末分詞の好ましい使用例」と、次に示す「関係代名詞非限定」や「2文に分けた文章」を比較してみましょう。文末分詞を使った例は、これらの表現と比べて、後半の内容へスムーズに目線を移すことができ、読みやすいことが分かります。
V.S.【関係代名詞非限定】:
However, the photoresist layer portion may remain in the trench, which protects the underlying metal layer from subsequent processing steps.
解説:関係代名詞whichの先行詞が前の文章全体であることが一読すると分かりづらい。直前のtrenchに係るようにも読める。文末分詞を使うと、文章全体に係っていることが理解しやすい。
V. S.【2文に分けた文章】:
However, the photoresist layer portion may remain in the trench. This protects the underlying metal layer from subsequent processing steps.
解説:短く明快な文章ではあるが、文をこまめに区切りすぎると、流れが悪くなり、読みづらくなることもある。文末分詞により2文をつなぎ、流れよく読ませたい。
「~を使って」の意味のUsingは一体何?
最後に、よく生じる疑問として、「~を使って」を表す際に広く使われる分詞usingの文法的な説明を求められることがあります。
例えば、分詞usingは、次のように、「~を使って~する」といった文脈で使われることがあります。
分詞usingの使用例:
Speech recognition systems have been developed using weighted finite state transducers (WFSTs), including large vocabulary continuous speech recognition (LVCSR) systems.
(会話認識システムは、例えば大語彙連続音声認識 (LVCSR)のように、重み付き有限状態トランスデューサーを使って開発されてきた)
Intel Corporation による米国特許より
(米国特許番号8,484,154)
ここに使われているdeveloped usingは、developed by usingであれば、文法的に容易に説明が可能です。つまり、受動態の動作主のbyの後ろに「行為」であるusingを置いた形です。一方で、byを使わないdeveloped usingといった表現が実際には多く見られ、この種のusingについて、文法的な説明を探して悩んでいる翻訳者や技術者は、比較的多いようです。
前置詞として働く分詞の存在
この種のusingを許容したり文法的に理由づける記載は、現時点では、各種スタイルガイドや文法書などに確認することができていません。一方で、個人的には、このusingは、「前置詞のように働く分詞」と考えるとよいと思っています。
有名なスタイルガイドであるThe Chicago Manual of Style(シカゴマニュアル)には、「assumingやconsideringといった一部の分詞は前置詞のように働きそれは懸垂分詞には該当しない」、と記載されています。一例をあげます。
前置詞として働くとみなされる分詞の例:
Considering the road conditions, the trip went quickly.
(道の状態を考慮すると,速く移動できたほうだ)
*consideringの意味上の主語とthe tripとがずれているが、懸垂分詞にはあたらない
The Chicago Manual of Style, 15th edition(p.188)
この記載から、「前置詞のように働く分詞」が存在することが分かります。したがって、問題の分詞usingは、「assumingやconsideringといった一部の分詞」に含まれるものと考えるとよいでしょう。
この種の「前置詞のように働く分詞」は、係りが曖昧になったり、読みづらくなったりする文脈では使用するべきではありません。一方で、明確に書ける場合には、使用が許容されることを覚えておくとよいでしょう。
正確・明確に書くために―疑問を持ち、実務の中で理由付けしながら解決する
分詞構文は、まずは主語のズレを避けて正しく使えることが大切です。次に大切なのは、より明快に表現する工夫をすることです。例えば、接続詞を残すことで、分詞構文をより明確に書くことができます。次に、分詞構文を使わずに、単文で書く工夫も可能です。分詞構文の類の使用を一切やめて表現し続けてみると、文末で使う分詞については、少し必要性があることが分かってきます。さらには、分詞usingの使用についても、理由付けを探します。英文を読み書きし、さらにはスタイルガイドや文法書も参考にして、少しずつ、実務の中で、疑問への答えを出すことが大切です。そのような実務を経ることで、自身の翻訳スタイルを構築し、より正確に、そして明確に書くことができるようになります。
【分詞にまつわる疑問―分詞構文の活用方法を教えて】のPOINT
- 疑問を持ち、理由付けをしながら答えを出すことで、自分の翻訳スタイルを作り上げる。この過程がスキルアップにつながる。
- 分詞構文を使う場合、分詞の意味上の主語と主節の主語がずれる「懸垂分詞」に注意する。明確に書くため、また懸垂分詞を発見しやすくするためにも、分詞構文は接続詞を残して使用するとよい。
- 文末に置く分詞による修飾句は、前文全体を先行詞とする関係代名詞非限定などと比較して、活用価値が高い場合がある。
- 「~を使って~する」という場合に使う分詞usingは、「前置詞として働く分詞」と考えるとよい。