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第3回【日英でニュアンスがずれることがある動詞<realize, expect, contribute>】

 動詞の選択は、明確で力強い英文を書くために重要です。また、選択を誤ると、正しく内容を伝えられなくなってしまいます。
日本語と英語でニュアンスがずれやすい動詞があります。realizeとexpectを取り上げます。

「実現する」の英訳「realize」の何が問題?

 日本語「実現する」の英訳に使われる英語の動詞realizeにまつわる問題として、次の3つが挙げられます。

①日本語「実現する」にはプラスのニュアンスが伴いがち。一方、英語realizeは単に「現実化する」であって、動詞自体にプラスのニュアンスがあるわけではない。

②日本語の「実現する」は多用な場面で使われ、それらすべてをrealizeで表すことが難しい。特に、realize =「〈希望・計画などを〉実現[達成]する(小学館 プログレッシブ英和中辞典)」であるため、「モノを実現する」という文脈にrealizeを使うことができない。

③realizeが、本来使うべき動詞を隠す弱い動詞となる場合がある。

 まず①について、「実現する」と聞くと、何か素晴らしいことに関連するようなイメージを抱くことでしょう。「成功裏に実現する」といったプラスの意味を連想することもあるでしょう。一方、動詞realizeは「単に現実化する」です。日本語「実現する」が持つようなプラスのニュアンスは無いと考えられます。例文を見てみましょう。

(1) It will probably be several months before anything concrete is realized.(なんらかの具体的な形が出来上がるまでには、おそらくまだ数カ月かかるだろう)
                                       『日外ビジネス/技術実用英語大辞典第3版』より

解説:「具体的な形が(単に)出来上がる」を表し、プラスの意味は特に感じられない。

 次に②について、日本語の「実現する」は、「達成する」や「可能にする」といった文脈、さらには「作成する」「~として機能する」「商品化する」といった、より具体的な様々な内容を表す文脈で広く使われます。それらすべてをrealizeで表そうとすると、誤ってしまうことや、不適切な表現となってしまうことがあります。
 また特に、日本語の「実現する」が「概念」に対してだけでなく「モノ」に対しても広く使われる一方で、英語のrealizeは「モノを実現する」という文脈で使うことができません。例えば、次の例文(2)ではrealizeが正しく使われていますが、例文(3)は不適切ですので、リライトする必要があります。

(2)新しい設計概念が実現した
訳例:A new design concept has been realized. ○

解説:design conceptに対してrealizeを正しく使用。

(3)既存の技術では不可能と考えられていた本機械が実現した
訳例:The machine, which was once considered impossible with the existing technology, has now been realized. ×

解説:machineというモノを実現するのにrealizeを使っているので不適切。

(3)のリライト例: The machine, which was once considered impossible with the existing technology, has now been commercialized. ○

動詞をrealize→commercializeに変更することで、誤りが無くなるだけでなく、具体的で明確な表現になる。

 さらに、③の問題について、テクニカルライティングでは、動詞の名詞化を極力避けて、本来使うべき動詞を生かした表現を心がけることが大切です。ところが、realizeが、本来使うべき動詞を隠す弱い動詞となってしまうことがあります。例えば、次の例文(4)では、本来使うべき動詞reduceをrealizeが隠してしまい、長く回りくどい表現となっているのでリライトが必要です。

(4)製造工程の簡素化によって製品コストの削減が実現される
Reduction of product cost is realized by simplifying the manufacturing processes. △

解説: realizeが使われ、本来使うべき動詞reduceが名詞形となっている。

(4)のリライト例: Product cost is reduced by simplifying the manufacturing processes. ○

解説:動詞reduceを使って書き直すことで、明確で簡潔な表現になる。

対応策―realizeをachieveやenableまたは別の具体的な表現に変更

 「実現する」の英訳にrealizeを使う代わりに、他の具体的な動詞を使えないか、またはenableやachieveに変更できないかを考えてみるとよいでしょう。例えば、次のようにリライトすることができます。

(1)本装置によれば、様々な画像パターンに対応して、安定した画像品質を実現することができる
訳例:The system realizes stable image quality for various image patterns. △

解説:「実現する」にrealizeを使用。これでも正しいが、別の表現が好ましい。

リライト例:The system achieves stable image quality for various image patterns. ○

解説:realize→achieveに変更。

(2)本制御方法によれば、処理の高速化と、電源断に対するデータ保護を実現することができる
訳例:This control method realizes higher processing speed and data protection against power shutdown. △

解説:「実現する」にrealizeを使用。これでも正しいが、別の表現が好ましい。

リライト例: This control method enables the processing speed to be increased and data to be protected against power shutdown. ○

解説:realize→enableに変更。

(3)プリフィルタは、フィルタ係数を可変にすることで、1つのフィルタ回路で3つのフィルタを実現させる
訳例:The pre-filter uses a variable coefficient to realize three filters using a single filter circuit. ×

解説:「実現する」にrealizeを使用。フィルタは「モノ」であるため不適切。

リライト例:The pre-filter uses a variable coefficient to enable a single filter circuit to function as three filters. ○

解説:realize→enableに変更し、さらにto function as three filters(3つのフィルタとして機能する)のように具体的に表現。

 上の例文(1)~(3)のリライト例のように、「実現する」をrealizeではなく、enableやachieveまたは別の具体的な動詞を使って表現することで、誤りが減るとともに、さらに明確に書くことができます。

「期待する」の英訳expectにも注意

「期待する」の英訳には動詞expectが使われることが多いですが、日本語「期待する」と英語expectの間でニュアンスがずれてしまうことや、expectが誤って使われてしまうことがないよう、注意が必要です。
 動詞expectは「予期する」「予想する」「推測する」を意味し、日本語が表す「期待する」と比べると、プラスのニュアンスは少ないと考えられます。ニュアンスのずれを見てみましょう。

(1)本試みによって、科学と芸術が融合することを期待している
訳例:We expect that the attempt will provide an opportunity for science and art to merge. △

解説:日本語が表したい内容は「我々は~を期待している」。一方、英語が表す内容は「我々は~と思う,予測する」。

リライト例:We sincerely hope that our attempt will provide an opportunity for science and art to merge. ○

解説:他の動詞を使ってリライトすることで、日本語のニュアンスに近づけることができる。

 また、英語expectの誤った使用を見てみましょう。

(2)この技術は期待されている
訳例:This technology is expected. ×

解説:日本語が表したい内容は「技術は有望である」。一方、訳例のis expectedだけでは、文として意味を成さない。

リライト例:This technology is promising. ○

解説:他の表現を使ってリライトすることで、「期待されている」、つまり「有望である」を明確に表すことができる。

 日本語「期待する」に対してexpectを使ってよいかどうか、一歩立ち止まって考えることが大切です。上の例文(1)(2)のリライト例のように、文脈に応じて適切に表現することで、日本語のニュアンスに近づけたり、誤りを防いだりすることができます。

「貢献する」の英訳以外にも使える動詞contribute

 次に、逆にプラスのイメージの日本語以外にも使える動詞contributeを取りあげます。動詞contributeというと、「貢献する」という日本語が真っ先に浮かぶことでしょう。日本語「貢献する」は、「ある物事に力を尽くして、利益をもたらすこと(小学館国語大辞典)」を意味し、プラスのニュアンスがあります。例えば次のように、動詞contributeを使って「貢献する」を表すことができます。

(1) A redesigned spoiler contributes to the aerodynamic improvement.(再設計されたスポイラーは、その空力性能改善に貢献している)
                                       『日外ビジネス/技術実用英語大辞典第3版』より

 このような代表的な使用例のために、動詞contributeには「プラスのイメージ」が定着し、プラスのニュアンスのある文脈だけで使われると思われがちです。しかし、実際に多くの英文を読んでいると、contributeが「貢献する」以外の文脈でも使われていることに気付きます。例えば、次のように、ネガティブな意味を持つ文脈にも、動詞contributeを使うことができます。

(2) Drinking contributes to many motor vehicle accidents.(飲酒が多くの自動車事故の一因となっている)
(3) Acid rain contributes to many diseases.(酸性雨が多くの病気の原因となっている)
                                       『日外ビジネス/技術実用英語大辞典第3版』より

 上の例文(2)(3)から分かるように、動詞contributeの本当の意味は「何かの一因となる」であって、「貢献する」を表すプラスのニュアンスのある文脈以外でも、広く使うことができるのです。

 動詞contributeの例のように、英単語が自分のイメージ通りでないことを知るたびに、より多くの英語を読み、各単語の真の意味を知る必要性を強く感じます。

正確・明確に書くために―日英を逐一対応させずにその都度明確な表現を探す・多くの英語を読む

 日本語と英語は逐一ぴったりと対応するものではないことを念頭に置き、文脈に応じてその都度適切な単語を選ぶことで、正確・明確に書くことができます。種々の単語の日英の違いと単語の真の意味を知り、各単語をうまく活用するためには、辞書をこまめに引くとともに、多くの英語を読むことが大切です。多読によって、正確で明確、そしてより自然な英語を書くことができるようになると思います。

【日英でニュアンスがずれることがある動詞<realize, expect, contribute>】のPOINT

  • 辞書をこまめに引くとともに、多くの英語を読み、各単語の真の意味を知ることが大切。日英の「違い」を見つけ、楽しむことが、スキルアップにつながる。
  • 「実現する」にプラスのニュアンスがある一方で、realizeは「単に現実化する」。また、「実現する」が多用な場面で使われる一方で、realizeは活用範囲が比較的狭い。「モノを実現する」文脈では使えない。enableやachieveまたは別の具体的な動詞を使って「実現する」を表現することで、誤りが減るとともに、明確になることがある。
  • 「期待する」については、expectでよいかどうか一歩立ち止まって考え、文脈に応じて適切に表現する。
  • contributeは「貢献する」ばかりではなく、「何かの一因となる」場合に広く使える。

目次

本連載は、日本工業英語協会による機関紙『工業英語ジャーナル』に2009年6月から2014年6月にわたって連載した「日英翻訳スキルアップ」(中山裕木子著)を元に、加筆修正したものです。

中山 裕木子著 外国出願のための特許翻訳英文作成教本

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